東京地方裁判所 昭和37年(ワ)5065号 判決 1963年5月06日
判 決
神奈川県川崎市大師河原下田町四、四五四番地
原告
手塚喜代作
右訴訟代理人弁護士
井原邦雄
同
藤本博光
同
今井隆雄
同
辻本豊一
横浜市南区白妙町三丁目三四番地
被告
国際陸送株式会社
右代表者代表取締役
関水守
右訴訟代理人弁護士
川島政雄
右当事者間の損害賠償請求事件について、つぎのとおり判決する。
主文
(一) 被告は原告に対し金一四七万四、三六九円及びこれに対する昭和三七年七月一〇日から支払済に至るまでの年五分の割合による金員の支払をせよ。
(二) 原告その余の請求を棄却する。
(三) 訴訟費用中金四、六五〇円(訴状、訴状訂正申立書貼用印紙の一部)は原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
(四) この判決は第一項に限り仮りに執行することができる。
事実
原告は、「被告は原告に対し金二四〇万七、二四二円及びこれに対する昭和三七年七月一〇日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求め、請求の原因として
一、原告は、昭和三六年八月三〇日午前九時〇五分頃、第二種原動機付自転車(ライラツク号・一二五CC、以下「被害車」という)を運転して川崎方面から品川方面に向つて第一京浜国通(幅員一四、六米)を進行中東京都大田区大森四丁目二八六番地附近において、折柄、訴外石山孝太郎が運転し同方向に進行する大型貨物自動車(三菱ふそうシヤシー、横臨第一四〇一号、以下、「加害車」という)の左側キヤブ側面(扉の一部)で接触されて転倒し、更に、後部左側車輪で左大腿部及び左下腹部を轢かれて治療約六カ月を要する骨盤骨折、左肘郎、左側腹部、左大腿各挫創、右拇指挫傷等の傷害を受けた。
二、被告は、車輛の陸送を業とし、本件事故当時、加害車を陸送するため運行の用に供していたものであり、石山は、被告に雇われ被告の業務として陸送のため加害車を運転していたものであるから、被告は、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という)第三条本文の規定によつて、加害車の運行によつて生じた本件事故について、被害者である原告に対し、本件事故によつて生じた身体傷害による次項の損害を賠償すべき義務がある。
三、原告が本件事故によつて受けた損害はつぎのとおりである。
1 現実の損害について
原告は、本件事故後ただちに東京都大田区大森三丁目一七四番地佐藤病院に入院し同年一一月二三日まで治療を受け、同月二四日神奈川県川崎市大師河原四、五〇〇番地川崎中央病院に転入院し同年一二月二四日まで治療を受けて退院し、以後同三七年二月末日まで右病院に通院し治療を受け、その後は自宅療養を続け現在に至つている。原告は、昭和二三年六月二一日いすゞ自動車株式会社に入社し、本件事故当時同会社川崎製造所において熔接工として勤務していた者であるが、本件事故によつて前記傷害を受けたため昭和三六年八月三一日から翌三七年二月末日までの間(実日数一四七日)欠勤を余儀なくされ、賃料合計金二六万二、一四二円の得べかりし利益を喪失し同額の損害を受けた。すなわち、原告は、その間無欠勤であつたならば勤務先会社の「社員給与規則(甲第五号証)」、「生産報奨金協定(同第六号証)」及び「賞与に関する協定(同第七号証、第三四号証)」にもとづき、別紙甲「給与表」記載のとおり基本給、生産報奨金(一)の表、時間外手当(過去の一カ月当り平均額)及び賞与合計金四六万〇、四二一円を支給された筈であるが、右欠勤によつて右「給与表」記載のとおり欠勤控除をせられ、且つ時間外手当の支給を受けられなかつたことにより現実に支給を受けた金額は一九万八、二七九円にすぎずその差額金二六万二、一四二円の減収をきたし損害を受けた。
2 将来の損害について
(一) 原告は、本件事故による骨盤骨折のため左下肢筋萎縮を生じ左下肢が二・五糎短縮し跛行をみるに至り、蹲踞運動が困難となり、強度の運動によつて左下肢口疼痛を感じる状態となつたがこの障害は治癒の見込が全くない。原告は、現在四七才の頑健な男子であつて厚生大臣官房統計調査部刊行の第一〇回生命表によれば同年令の男子の平均余命が二四年であるから、原告も右同年数生存し熔接工として稼働することができた筈であるが、前記のとおりの身体障害によつて、勤務先会社の好意にすがつて定年の五五才までの間手先を主に使う軽度の自動車部品組立作業に従事することができるものの熔接工として作業することが不可能となつた。そのため、原告が熔接工として稼働することができたならば、経験年数による自動昇給と併せて労働能率による考課昇給することができたにも拘らず、定年までの間自動昇給しか期待することができず考課昇給の望みを全く絶たれた。原告が従来維持していた昇給率及び同僚の平均昇給率にもとづいて算定すると、原告が定年までの間に考課昇給をしないことによつて喪失する得べかりし利益は別紙乙「昇給表」記載のとおり金二四万九、一〇〇円となる。又、これに伴つて原告が定年退職によつて勤務先会社から支給を受けられる退職金についても、別紙丙「退職金表」記載のとおり金一七万〇、三〇〇円減額となる。右合計金を、ホフマン式計算方法によつて民事法定利率である年五分の割合による中間利息を控除して現在の一時払額に換算すると金二九万九、五〇〇円となる。
(二) 更に、一般に定年後と雖も熔接工として相当期間稼働することは可能であるから、原告は、その期間においても熔接工として稼働することができないことによつて損害を余儀なくせられる。すなわち、原告は、前記のとおりの余命を有し定年後尠くとも一七年間稼働することができ、熔接工として稼働したならば一カ月平均二万八、〇〇〇円の収益を得られた筈であつた。しかしながら、仮りにその間原告が雑役夫として稼働することができるとしても一カ月平均金一万五、〇〇〇円を超える収益を得ることは困難であるから、原告は、右定年後の期間毎月熔接工としての得べかりし収益と雑役夫としてのそれとの差額金一万三、〇〇〇円の割合により合計金二六五万二、〇〇〇円の得べかりし利益を喪失し同額の損害を受けることとなる。右金額を前記同様の方法によつて現在の一時払額に換算すると金一三四万五、六〇〇円となる。
3 慰藉料について
原告が前記傷害特に右傷害にもとづく前記身体障害によつて受ける精神上、肉体上の苦痛を詳述すればつぎのとおりである。
(イ) 急な姿勢転換や跳躍等ができないから、日常の起居振舞、特に階段の昇降等が困難である。
(ロ) 上体を九〇度以上前屈することができないから、用便等が不自由苦痛である。
(ハ) 歩行速度が通常人の四分の一程度であるから、外出の際、特に交通頻繁な車道の横断等には相当の危険がある。
(ニ) 同一姿勢を持続していると足のむくみや臀部の痛みが生じてくるから日常の動作、勤務先における作業に支障がある。
(ホ) 原告が勤務先会社において自動車部品組立の作業に従事していることは前記のとおりであるが、これは全く同会社の好意によるものであつて、同会社は、原告の作業能率を通常人の約二分の一と評価しながらもその作業能率の低下が直接表われないように、グループ単位でする組立作業の一員として原告を配置し、他のグループ員の犠牲において原告を一応通常人と等しく待遇しているのである。従つて、原告としては、会社に対しても、他のグループ員に対しても相当精神的負担を感じている。
以上のとおり、原告は、本件事故による傷害によつて精神上、肉体上甚大な苦痛を受け、更に、一生涯身体障害者として苦痛不自由に堪えながら衆目に曝され肩身の狭い思いをし続け、二男三女を抱えて余生を送らなければならない。右苦痛を慰藉するには金五〇万円を以て相当とする。
四、よつて、原告は、被告に対し右損害合計金二四〇万七、二四二円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和三七年七月一〇日から支払済に至るまでの年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
と陳述し、被告の自賠法第三条但書の規定の主張に対する答弁として
一、第一項の事実は不知。
二、第二、三項の事実は否認する。石山孝太郎は、被害車を追い抜く際に、被害車の動静を注視し、被害車に接触する等のないよう充分安全な間隔を保持して進行すべき義務があるに拘らず右注意義務を怠り漫然進行したため加害車の左前部を被害車に接触させ本件事故を発生せしめたものであるから同人に過失があることは明らかである。
三、第四項の事実は認める。
と陳述し、被告の過失相殺の主張事実を否認し、一部弁済等の主張事実を認めた。
被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として
請求原因第一、二項の事実は認めるが、同第三項の事実は不知。と陳述し、自賠法第三条但書の規定の主張として
一、被告は、加害車の連行に関し注意を怠らなかつた。すなわち、被告は、石山孝太郎を自動車運転者として採用するについては、厳重な身体検査を実施し、同人が昭和三〇年五月三輪自動車免許を、同三二年七月大型自動車免許を夫々取得し、同三二年五月より三六年六月までの間訴外横浜石油運送株式会社に自動車運転者として勤務し長期の運転経歴を有すること、同人の家庭生活、勤務先における勤務状況等充分調査し採用後、同人の運転技術、注意力、責任感、家庭生活の状況等をたえず調査し、且つ、同人に対する福利、厚生から身心の状態に至るまで意を払い、更に、常々、同人に対し交通法規、交通道徳に関する指導をなし充分の監督をしていたし、本件事故当日も同人が充分休養をとつて身心ともに健全な状態であることを確めたうえで勤務に就かせた。
二、石山は、本件事故当時、加害車の運行に関し注意を怠つていなかつた。すなわち、同人は、道路交通法第一八条の規定により通行後順位とされる被害車を追い抜くに当つては、前方注視、警戒等の一般的注意義務を怠らなかつたことは勿論、被害車の行動に充分留意し被害車との間隔に充分の距離を保持する等周到な注意を払つて被害車の右側を進行したのであるから同人には何等の過失がなかつた。
三、本件事故は、原告の過失によつて発生したものである。すなわち、原告は、被害車を運転して本件事故現場道路を進行し、通行優先の先順位にある大型貨物自動車を推定時速約五〇粁の速度(最高制限速度は四〇粁)で追い越した直後、後方から加害車が追い越そうとするのを察知したが、通行優先の先順位にある加害車に対し道路の左側に寄つて進路を譲らなければならない義務があるにもかかわらず前記高速度運転と運転技術未熟のため操縦の自由を失い加害車の側方において蛇行運転をし、加害車の走行によつて生じる風圧のため転倒し加害車の後部車輪に接触したものである。
四、加害車には構造上の欠陥又は機能上の障害がなかつた。
と陳述し、仮定抗弁として
一、(過失相殺の主張)仮りに、被告に本件事故による損害賠償義務があるとしても、原告には前記過失があるのであるから損害額の算定についてこれを斟酌すべきである。
二、(一部弁済等の主張)
被告は、原告に対し左のとおり金員の支払をしている。
(イ) 昭和三六年九月七日
見舞金一、〇〇〇円
(ロ) 同月二六日
布団代金三、〇〇〇円
(ハ) 同年一〇月一九日
休業補償資金二万円
(ニ) 同年一一月一一日
同 金二万円
(ホ) 同月二四日
治療費金一〇万七、七二八円
(ヘ) 同日
同 金二、一二二円
(ト) 同年一二月一四日
休業補償費金二万円
従つて、仮りに、被告に本件事故による損害賠償義務があるとしても、右休業補償費合計金六万円を一部弁済として、その余を慰藉料算定につき斟酌すべき事情として主張する。
と陳述した。
(立証)≪省略≫
理由
一、請求原因第一項(本件事故の発生)及び被告に損害賠償義務があるとの主張を除き同第二項の事実(帰責原因)は、当事者間に争がない。従つて、被告は、自賠法第三条但書の規定に掲げられる免責要件事実を総て主張立証しない限り、同条本文の規定にもとづいて原告に対し本件事故によつて生じた身体傷害による損害賠償義務を負うものといわなければならない。
二、そこで、被告の免責要件事実の主張について判断する。
(証拠―省略)を総合すれば
1 原告は、約一カ月前に勤務先のいすゞ自動車株式会社大森製造所から川崎製造所に転勤したが転勤の挨拶廻りを済ませていなかつたので、本件事故当日休暇をとり被害車を運転して挨拶廻りに赴く途中、川崎方面から品川方面に向つて第一京浜国道(幅員一四、六米)を進行し本件事故発生現場附近に差し蒐つたこと
2 本件第一京浜国道は、本件事故現場においてその各片側部分に二区分帯が設けられてある道路(二車線)であつて、原告は、当時、時速約二五粁の速度でその第二区分帯の左側部分を歩道縁石との間に約二・五乃至三米の距離を保つて進行し先行する足踏二輪自転車を追い越そうとしていたこと
3 石山孝太郎は、東京都大田区蒲田所在の加藤車体工場から同都港区三田所在の三田ふそうまで加害車を運転して陸送する途中、原告と同一方向に向つて第一京浜国道を進行し本件事故現場に差し蒐つたが、当時、右国道の第二区分帯の右側部分を時速約四〇粁の速度で進行していたこと
4 石山は、本件事故発生地点(別紙見取図記載×点)の約一〇米手前(同(1)点)において、前方に足踏二輪自転車及びこれに続いて走行する被害車を認めたが別段危険を意識せず被害車を追い抜いたところ右地点から約一〇米進行した附近(同(2)点)において衝撃音をきいたので、加害車と接触したのではないかとふりかえると同時に更に車輪が物体に乗り上げた衝撃を受け、事故の発生を直感したので、右地点から約五、二米進行した附近(同(3)点)において加害車を道路の左側に寄せながら停車の措置を講じ、更に約一六、七米進行した箇所(同(4)点)において停止させたところ、原告は、右×点から約二、二米品川方面寄り、歩道縁石から約三、四米の地点(同(二)点)において頭を北東の方向に向けて、足を南西の方向に向けて横向きになつて倒れていたこと
5 本件事故直後、取調に当つた警察官が加害車及び被害車について接触箇所の有無を取り調べたところ、加害車の前部左側フエンダーの地上〇、八米の箇所(甲第二二号証の一)に長さ約三糎の接触痕があつて、被害車の右ハンドルブレーキレバーの端に、右加害車の接触箇所から剥離した塗料が小量附着し(右ハンドルブレーキレバーは地上約〇、八米の位置にある。甲第二二号証の三)、加害車の左側後車輪外側のトレツド部に被害車のテールランプガラス破片がはさまつていて、被害車の後部車体が凹損していたことが現認されたこと
を認めることができ、(中略)他に右認定に反する証拠はない。
右認定の事実によれば、石山が加害車を運転して被害車を追い抜くに際し、被害車との間隔を充分保つてこれと接触することのないようできる限り安全な方法で進行すべき注意義務を怠つたものと認めるのが相当であつて、既に加害車の運転車たる石山に加害車の運行に関する過失の認められる以上被告の主張は爾余の点について判断するまでもなく理由がないものといわなければならない。
三、よつて、損害の点について検討する。
(証拠―省略)を総合すれば、つぎの事実が認められる。
(一) 原告が本件事故後ただちに東京都大田区大森三丁目一七四番地佐藤病院に入院し同年一一月二三日までに治療を受け、同月二四日自宅附近の病院に転入院し同年一二月下旬頃まで治療を受けて退院し、以後相当期間右病院に通院し治療を受け、そのため昭和三六年八月三一日から翌三七年二月末日までの間勤務先会社を欠勤したこと
(二) 原告が昭和二三年六月二一日、勤務先会社に入社し、本件事故当時、同会社の社員給与規則(甲第五号証)の定める一般作業職のうち職務遂行能力(以下職能という)区分のL3(優秀な熟練工としての能力を充分有している者及びかなりの熟練工で指導工への素質が充分認められる者、最低必要経験年数一一年)の、経験年数二九年を有する熔接工として、毎月基本給金二万二、八〇〇円、時間外就業手当金八、三八九円その他諸手当の支給を受け、右以外に毎日、会社との協定にもとづき生産報奨金の支給を受けていたこと
(三) 原告の勤務先会社の給与は、定期給与、臨時給与、賞与及び退職手当に区分され、
(1) 定期給与は、(イ)基準給与(基本給、家族手当、役付手当、特殊作業手当)、(ロ)生産報奨金、(ハ)基準外給与(時間外就業手当その他の手当)からなるが、
(a) 基本給は、月給制であつて、社員給与規則にもとづいて、従業員の経験年数、職能及びその発揮度に応じて格付けがされ、原則として毎年四月に実施される自動昇給(経験年数の増加に応じて自動的に行なわれる昇給)及び考課昇給(一定の考課査定方式によつて査定し点数を以て表示される能力の発揮度(考課点という)の上昇に応じて行われる昇給)からなる定期昇給によつて、あらたな適正基本給に格付けがされることとなつている
(b) 生産報奨金は、会社との協定にもとづいて、基本給に支給率(一定の数値(昭和三六年八月一五日成立の協定によれば、〇、二四七九九に生産率及び稼働率を乗じた数値に〇、一二一〇五を加算した数値、本件事故当時、ほゞ一〇分の四)を乗じた金額に一定の金額(右協定によれば九〇〇円)を加算して算定されることとなつている
(c) 時間外就業手当は、右給与規則にもとづいて、一時間について基準給与(家族手当を除く)及び生産報奨金の合計額に一、〇〇〇分の七を乗じて算定されることとなつている。
(2) 賞与は、会社との協定にもとづいて、毎年上期(一一月一日から翌年四月三〇日までの間)及び下期(五月一日から同年一〇月三一日までの間)に平均支給額及び支給条件(基準給与比例分、成績査定分、家族配分)が定められて算定されることとなつている
(3) 退職手当は、退職手当支給規則(甲第三六号証)にもとづいて、退職者の退職時における退職手当金算出基礎額(一般社員の場合、基本給に〇、八四五を乗じた額に金一、二〇〇円を加算した金額)に勤続年数に応じた支給率(右規則の別表1に掲記)を乗じて算定されることとなつている
以上のとおりであること
(四) 右会社においては、従業員が欠勤した場合、基本給、生産報奨金及び賞与について左記のとおりの割合により欠勤控除がなされること
(1) (基本給の欠勤控除率)
入社後二年未満の者 欠勤一日につき基本給の一〇〇分の四
入社後二年以上の者 欠勤一日につき基本給の一〇〇分の二
(2) (生産報奨金の欠勤控除率)
欠勤一日につき理論生産報奨金額の一〇〇分の四
(3) (賞与の欠勤控除率)
1 現実の損害について、
(証拠―省略)を総合すれば、
(一) 原告が右欠勤期間勤務することができたならば、別紙(甲)「給与表」記載のとおり、基本給金一五万九六〇〇円((一)の表の(A)欄合計額)、生産報奨金六万七九三八円(同表の(B)欄合計額)、時間外就業手当金五万〇三三四円((二)の(C)の喪失額、一カ月二〇時間時間外就業が可能であると認められる。)、昭和三六年度下期賞与金九万一二四六円((三)の(1)の(A))、同三七年上期賞与金九万一三〇三円((三)の(2)の(A))合計金四六万〇四二一円の支給を受けることができたものと予想されること
(二) しかしながら、右欠勤によつて、原告が右「給与表」記載のとおり基本給及び生産報奨金について合計金一二万五七一八円((一)の表の(C)欄の合計額)の欠勤控除をされ、時間外就業手当については全額の支給がなく、下期賞与については金二万九〇二〇円((三)の(1)の(B))、上期賞与については金五万七〇七〇円((三)の(2)の(B))の欠勤控除をされ、現実には合計金一九万八二七九円の支給を受けたにとどまり、金二六万二一四二円の給与をうけ損じ、同額の損害を受けたこと
を認定することができ、他に右認定に反する証拠はない。
2 将来の損害について
成立に争のない甲第一二号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告が大正三年一一月二九日生であつて本件口頭弁論終結当時満四八才の通常の健康体を有する男子であることが認められ、厚生大臣官房統計調査部刊行の第一〇回生命表(甲第二八号証)によれば右年令の男子の平均余命が二四、〇三年であるから原告も右平均余命年数の間生存することができるものと推認できるが、右平均余命年数は、或る年令に達した者がその後において生存すると期待される年数であつてその余命全部の年数を以てただちに稼働可能とするものではない。従つて、原告について右余命全部の年数の間熔接工として稼働することが可能であると認むべき特別の事情があれば格別であるが、証人(省略)の証言によれば、原告の勤務先会社の停年が五五才であること、原告が停年退職後同会社の系列会社に再就職する等して六〇才までの間熔接工として稼働することが可能であると予測されるが以後の予測はできないことが認められ、(中略)他に右認定に反する証拠はない。従つて、原告は、本件事故によつて前記身体障害を受けなければ、将来、定年の五五才までの間は勤務先会社において、定年退職後六〇才までの間は他の会社に再就職する等して、いづれも熔接工として稼働することができたものといえる。
(一) 定年の五五才までの損害
(証拠―省略)を総合すれば
(1) 前記骨盤骨折の箇所は左腸骨の上部及び骨、坐骨の部分であつて、骨折転位があつたが、原告が受傷後相当期間重篤の状態であつたため整復が遅れ、その間に左腸骨が正常位置により上位の状態で且つ骨及び坐骨の部分の骨折転位が整復されないまま骨折部が癒合し、これに伴い左下肢筋萎縮が生じた結果原告は、左下肢が二、五糎短縮し跛行をみるに至り、且つ、強い運動(走行跳躍、激しい姿勢転換、上体の九〇度以上の前屈等)が不可能となり、起立姿勢同一姿勢を持続すること及び蹲踞運動が困難となり、坐つた姿勢でも骨折部分に疼痛を感じる状態となり、このような障害は将来治癒する見込がなく、これによつて原告の労働能力は通常人の約二分の一に低下し、将来若干変化があるとしても到底通常人と同程度まで恢復する見込がないこと
(2) 原告が将来定年の五五才までの間、熔接工として稼働することができたならば、毎年自動昇給と併せて、考課点三点宛加算されて考課昇給し、逐年、別紙乙「昇給表」(A)欄記載のとおりの各基本給の支給を受けられるものと予想されること
(3) しかしながら、原告は、前記身体障害を受けた結果、勤務先会社の好意ある取りはからいによつて、軽度の自動車部品組立作業に従事することができるものの熔接工として稼働することが不可能となり、且つ、労働能力が前記のとおり通常人の約二分の一に低下したことによつて考課昇給の見込がなく、毎年、自動昇給しかできないもと予想され、この結果、定年の五五才までの間逐年、前記「昇給表」(B)欄記載のとおりの各基本給の支給を受けるにとどまり、毎月、同表(C)欄記載のとおり基本給の減収をきたし、これにともなつて同表(D)、(E)、各欄記載のとおり生産報奨金、時間外就業手当の減収をきたし(以上の年間減収額は同表(F)欄記載のとおり)、毎月同表(G)欄記載のとおり賞与の減収をきたし、昭和三七年四月から同四四年一一月までの間に合計金二四万九一〇〇円の得べかりし利益を喪失し同額の損害を受けること(なお、証人(省略)の証言によれば、右損害中、本件口頭弁論終結の日である昭和三八年二月二七日現在において一部は現実の損害となつたことが認められる。)
(4) これにともなつて、原告の退職手当が金一七九万七、二二二円(退職時における基本給金二万三、九〇〇円に〇、八四五を乗じた金額に金一、二〇〇円を加算し、原告の勤続年数三七年によつて得られる支給率八四を乗じた金額)となり、原告が熔接工として稼働し考課昇給をすることができたならば得べかりし退職手当金一九六万七、五七四円(基本給金二万六、三〇〇円として右同様の方法で算定)と比較して金一七万〇、三五二円の減収となり、同額の損害を受けることが認められ、右認定に反する証拠はない。
右合計金四一万九、四〇〇円の損害金を、ホフマン式計算方式(原告主張の単式による、以下同様)によつて民事法定利率である年五分の割合による中間利息を控除して現在の一時払額に換算すると金二九万九五七一円となることが計算上明らかである。
(二) 定年退職後の損害
前認定によれば、原告は定年退職後、他の会社に再就職する等して六〇才までの間熔接工として稼働することができ、その間、一カ月金二万八、〇〇〇円を下らない収入を得られた筈であるところ、原告は、その間雑役夫として稼働し、一カ月金一万五、〇〇〇円の収入を得られるべき旨自陳するから(原告が雑役夫以外の職種の作業員として稼働できることを積極的に認めるに足る証拠はなく、五五才を超えた年令の者が雑役夫として右金額を超える収入を得ることが困難であることは、ほぼ公知の事実といえる)。結局原告は、熔接工として得べかりし収入と雑役夫としてのそれとの差額月金一万三、〇〇〇円の割合により五年分合計金七八万円の得べかりし利益を喪失し、同額の損害を受けるものと認められ、他に右認定に反する証拠はない。右金額を、前記同様の方法によつて現在の一時払額に換算すると金四七万二七二七円(円未満切捨)となることが計算上明らかである。
3 慰籍料について
原告が前記傷害によつて、本件事故に遭遇した直後から現在までの間に既に精神上、肉体上甚大な苦痛を受けたことは推測に難くなく、現に身体障害者として日常生活及び勤務先会社における職務遂行上、多大の不便、若痛をうけ、将来もこれに堪えなければならないことは原告本人尋問の結果によつて充分に予想できるところである。前顕甲第一二号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告が尋常高等小学校卒業の学歴を有し、昭和六年函館市内株式会社大森鉄工所に入社し、以来熔接工の作業に従事し、昭和二三年六月二一日いすゞ自動車株式会社に入社し本件事故当事前記のとおりの熔接熟練工として勤務していたこと、原告が妻カネ(大正九年二月一五日生)、長女利子(昭和一六年五月二一日生)長男嵩美(昭和一八年一〇月三〇日生)、次男秀美(昭和二二年四月二日生)、次女敏子(昭和二九年四月五日生)、三女規子(昭和三〇年九月一五日生)の家族を擁して生計を維持しなければならない立場にあることが認められ、以上の事実に、前認定の原告の年令、職業、収入並びに本件事故の状況その他諸般の事情を斟酌すれば、被告が慰籍料算定につき斟酌すべき事情として特に主張する原告に対する見舞金等の支払の事実を考慮しても、原告に対する慰藉料は原告が主張する金五〇万円を下らないものと認めるのが相当である。
四、被告は、過失相殺を主張するが、この点に関する証人(省略)の証言は、前記のとおり措信することができず、他に過失が原告にあつたと認めるに足る証拠は何もないから右主張は採用の限りでない。
五、ところで、被告主張のとおり原告が被告から休業補償費として合計金六万円の支払を受けたことは原告の認めると (甲)
給与表
(甲)
(一)基本給・生産報奨金
労働月日
(A)
基本給
(B)
生産報奨金
欠勤日数
(C)
欠勤控除額
(A)+(B)?(C)
現実支給額
36年8月
22,800円
9,637円
1日
841円
31,596円
〃 9月
22,800
9,919
25
21,319
11,400
〃 10月
22,800
9,920
26
21,776
10,944
〃 11月
22,800
9,840
24
20,784
11,856
〃 12月
22,800
9,676
25
21,076
11,400
37年1月
22,800
9,521
22
19,553
12,768
〃 2月
22,800
9,425
24
20,369
11,856
計
159,600
67,938
147
※125,718
101,820
※ 得べかりし基本給、生産報奨金の喪失額
(二) 時間外就業手当
(A) 平常就業時の月平均時間外就業手当 8,389円
(B) 欠勤期間 6ヵ月
(C) 得べかりし時間外就業手当の喪失額 (A)×(B)=50,334円
(三) 賞 与
(1) 36年度下期賞与
(A) 本来支給さるべき額 91,246円
(B) 欠勤控除額 29,020円
(C) 現実に支給された額 62,226円
(2) 37年度上期賞与
(A) 本来支給さるべき額 91,303円
(B) 欠勤控除額 57,070円
(C)現実に支給された額 34,233円
(3) 得べかりし賞与の喪失合計額 86,090円
昇給表
(乙)
37年4月
~
38年3月
38年4月
~
39年3月
39年4月
~
40年3月
40年4月
~
41年3月
41年4月
~
42年3月
42年4月
~
43年3月
43年4月
~
44年3月
44年4月
~
44年11月
(A)自動昇給及び考課昇給を併せてする場合の基本給の変化
円
23,350
円
23,900
円
24,300
円
24,700
円
25,100
円
25,500
円
25,900
円
26,300
(B)自動昇給のみする場合の基本給の変化
23,050
23,300
23,400
23,500
23,600
23,700
23,800
23,900
(C)基本給の一カ月当りの減収額(A)~(B)
300
600
900
1,200
1,500
1,800
2,100
2,400
(D)生産報奨金の一カ月当りの減収額(C)×0.4(生産報奨金支給率)
120
240
360
480
600
720
840
960
(E)時間外就業手当の一カ月当りの減収額{(C)+(D)}×7/1000×20時間
(過去の平均時間以下)
58.80
117.60
176.40
235.20
294
352.80
411.60
470.40
(F)基本給・生産報奨金・時間外就業手当の年間合計減収額{(C)+(D)+(E)}×12
(5円未満切捨・5円以上10円未満は5円とする)
5,745
11,490
17,235
22,980
28,725
34,470
40,215
30,640
191,500
(G)年間賞与減額分(C)×6月
1,800
3,600
5,400
7,200
9,000
10,800
12,600
7,200
57,600
合計減収額(F)+(G)
7,545
15,090
22,635
30,180
37,725
45,270
52,815
37,840
249,100
退職手当表
(丙)
(A) 退職時における基本給が26,300円の場合の額 1,967,574円
(B) 同23,900円の場合の額 1,797,222円
(C) 差額(A)-(B)= 170,352円
退職手当の算定方法は
(退職時における基本給の額)×0.845+1,200円 支給率(.84)=退職手当額支給率は勤続年数に
応じて定められ原告は21年の勤続者として上記数値となる。
ころであるからこれを前認定の現実の損害額から控除すべきであり、従つて、被告が自賠法第三条本文の規定にもとづき、原告に対し支払うべき賠償金は合計金一四七万四、三六九円であつて、本訴請求はこれとこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明白な昭和三七年七月一〇日から支払済までの民事法定利率である年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるけれどもこれを超える部分は理由がないといわなければならない。
六、よつて、原告の本訴請求は、右認定の限度において正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条本文、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項の規定を各適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第二七部
裁判長裁判官 小 川 善 吉
裁判官 高 瀬 秀 雄
裁判官 羽 石 大